現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【29】Chapter 1.1 - 10



 MP回復を終えて四十分ほどが経過。ちいなたちは、ダンジョンのさらに奥を目指して進行中だった。途中、五十体以上のモンスターが襲ってきたが、チームプレイもこなれてきたのか、難なく撃破することができた。
「モンスターのレベルが一つ上がっているな……」
「まぁ、まだ慌てるほどじゃないさぁ」
 といってもその五十体のうち、後半に襲ってきたモンスターたちは序盤のそれよりも平均レベルが一ほど上昇し、五十二になっていたことから、ジュードが言っていたようにこの先は難易度が上がっていくのだろう。

【29】Chapter 1.1 - 10

 現在のメンバーのレベルは、ちいな六十一、チノン五十五、ジュード五十二、さるとび五十六。このダンジョンで、ジュードとさるとびがレベルを一つ上げている。
「うわ、ここめっちゃ滑る! 滑る! 苔が、苔が……」
 チノンが足を滑らせて、どてっと尻餅をついた。
「こんなところでモンスターの大群でも出たらたまらんなあ」
 足場の悪いところでは移動の自由が制限されるため、不測の事態に咄嗟に反応ができない。

「私、壁役タンク代わるわ。チノン、ずっと前衛で疲れたでしょ」
 そう言うとちいなは重剣闘士(ソード・ウォリアー)のスキル、<バイタル・マスタリー>を発動させながらチノンの前に出た。

<バイタル・マスタリー>。自身の物理攻撃力と物理防御力を逆転させ、さらに三十パーセントの最大HP上昇補正、自身が稼ぐ敵視(ヘイト)量を大幅に増加させる効果を受けることのできる、重剣闘士ソード・ウォリアーのスキルだ。
 このスキルが発動している間は、<インサニティ・エンハンス>や<アサルトスイング>などいくつかのスキルは使用不可能になり、代わりにいくつかのスキルが使用可能になる。
<バイタル・マスタリー>を解除しない限り効果は永続するが、解除するには九分間の待機時間が必要になるバインドスキルだ。

 足元に気を付けながらダンジョンを奥に進んでいくと、少し開けた空間が見えてきた。
 四人の表情に緊張が走る。そこには大きな人型の影のようなものが四人の眼には見えていた。

『ルーディオド<Notorious Monster> Lv.61』
『エイジド・サハギンシーカー<Enemy> Lv.55』
『エイジド・サハギンウォーロック<Enemy> Lv.55』
『エイジド・サハギンランサー<Enemy> Lv.55』

 Notorious Monster、通称NMとは、いわゆる中ボスクラスもしくは中ボス以上の存在だ。他にも、強さはそれほどでもないものの、レアな素材や装備品をドロップするNMも存在する。
 ダンジョンを探索したからといって、必ずしも遭遇するとは限らないのがNMだ。
 通常、NMを倒すとおおよそ数時間後もしくは数十時間後、ダンジョン内のどこかに出現(ポップ)するような仕組みになっている。

 ルーディオド。硬い鱗に覆われた身長3メートル近くありそうな魚人だ。二足歩行のワニと言った方が分かりやすいかもしれない。
 四本の腕に槍と双剣、棘付きの鉄鞭を持っている。
 さらに、NMではない通常モンスターが三体、護衛役としてなのか、ルーディオドの周りを周回していた。

 ジュードは自身の宙に表示されたメニューを手で操作し、バフアイテム<トレヴグースの香油>を使用した。
 使用すると三分間、パーティーメンバー全員に七%の被ダメージ減少効果が付与されるアイテムだ。また、再使用規制時間(リキャストタイム)は十分間なので多用はできない。
 続けて<ポーションG3><マナポーションG3><ライフエリクサー>を具現化し、ポーチに収納した。それぞれ、HP回復、MP回復、蘇生の効果があるアイテムだ。
 戦闘中にアイテム欄からアイテムを選択して使用することはできないため、戦闘中に使用したいアイテムはこうしてポーチに収納する必要があるのだ。

 といっても蘇生アイテムの<ライフエリクサー>は、対象が戦闘不能になってから二十秒以内に使用しないと意味がなく、二十秒を過ぎると戦闘不能になったプレイヤーが強制的に拠点都市などに転移させられるため、その場での蘇生ができなくなってしまうという制約がある。

 さらにポーションなどの薬品類も連続で使用できるわけではなく、使用した対象に<エーテル酔い>のデバフが一定時間付与されるため、薬品の種類によって一分から五分程度、対象に再度使用することができない仕様となっている。MMOでは昔からお馴染みのポピュラーな制約だ。

 ポーチに収納できるアイテムは基本的に五枠まで。また同種のアイテムをスタック、つまり同枠に積み重ねることはできないため、例えば<ポーションG3>を同枠に四つ所持といった使い方はできない。
 ジュードの場合は、『旅慣れ』のスキルをマスターしているため、ポーチの所持枠が少し増加して七枠となっている。それ以外にも、空腹値の減少スピードが若干軽減されているといった特性を持っている。

「雑魚は僕とチノンでやるよ。ちいなさんはルーディオドのタゲ取りを」
「……」
 ちいなの反応がない。

「……ちいなさん?」
「んー? ちーちゃん??」
 チノンがちいなの顔の下からのぞき込む。
「……あ、はい!すいませんボーっとしてて……わかりました」
「ちーちゃん緊張してる? ――そうよね、確かまだログアウト組になって日が浅かったもんね。やっぱりタンク私がやる? アタッカーに回った方が気楽じゃない?」
 基本的に無邪気なチノンだが、ふとした時に見せる先回りした気遣いが何とも愛くるしい。
 その様子を横で見ている兄・ジュードの口元に、若干の微笑みが生じたことに気づいたのは、後ろで髭をいじりながら開戦を待っていたさるとびだけだった。