現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【28】Chapter 1.1 - 9

 ヨードルを救助した俺は、巻き添えを食わないよう<エルダー・ゴーレム>から距離を取るべく部屋の端まで駆けていった。もちろん、ミハエルさんたちや敵を回復魔法や攻撃魔法の射程距離内に置きつつだ。
「ヨードルも、ここにいたら危ない。俺と同じとこにいろ!」
「わかった!」
 ミハエルさんたちは<エルダー・ゴーレム>を相手に、ありったけの火力を叩き込んでいた。見た感じ、<エルダー・ゴーレム>の通常攻撃は見た目のアクションほど重くはない。

【28】Chapter 1.1 - 9

(これなら何とかなりそう……? ここで全滅したパーティーがいるという事実は気になるけど、そいつらが弱かっただけなのか)
 だが、そんな思考は数秒後に覆される。
「ど、どうなってんだこりゃあ! 全然ダメージ通らねえぞ!!」
 数回連続で切り付ける剣技、<ケイオスラッシュ>を放ちながらミハエルさんが叫ぶ。
 俺は頭上の高さの位置に表示されている<エルダー・ゴーレム>のHPゲージの減り具合を凝視した。
 ……ダンジョンの経験があまり無いのではっきりとは分からないが、<エルダー・ゴーレム>が出現したシチュエーションから察するに、こいつは多分中ボス級のモンスターだろう。
 それを割り引いても、確かにこいつのHPゲージは硬すぎる。このペースでは、<エルダー・ゴーレム>を倒すのに何時間かかるか分からない。
 恐らく先に俺のMPが尽き、グラハムさんを回復できなくなった時が終わりの時だろう。

 その時、またヨードルの奏でる旋律が耳を撫でた。
<撫柔の旋律(ラヴェルメロディー)>
 対象の物理防御力を引き下げる効果を持つ歌だ。他の歌スキルのように一定範囲内のモンスターや味方に効果を及ぼすのではなく、対象は単体。
(ヨードル……! よし、これで少しは攻撃が通るかな?)
 だが……。

「……ダメだ、効かない。コイツ、耐性持ってるよ!」

(防御力低下の弱体効果デバフを受け付けない体質、つまり耐性を持っているということか。……じゃあ、どうすりゃいいんだよ!?)

 俄かに俺の心中で漂い始めた、冷気にも似た灰色の予感。この世界に閉じ込められてから、初めての死が迫っているのかもしれない。
 もちろんソウルズの中での死は本当の死ではなく、ただのシステムによって統制された演出に過ぎない。だが、俺が自ら死んでそれを確認したわけではない。
 そもそも百パーセント確実に生き返ることができるのかも分からないじゃないか。この、ゲームの世界に閉じ込められるという非常識極まりない状況で、一体このゲームの何を信じ切れると言うのだ。
(何か……、何かいい手はないのか。この状況を好転できる、都合のいい旨い話が)

 ◆

「なんとか乗り切ったわね……。でも、まだ序盤を潜り抜けただけだと思うから、気を引き締めて行きましょう」
 狩りの最中にチノンが偶然見つけた未踏破ダンジョン、滝壷の洞窟。そこへ私とチノン、さるとびさん、ジュードさんの四人で突入していた。
 洞窟に突入してすぐ、大量に押し寄せたサハギンの群れを撃退しながら奥へ進み、脇に現れた通路へと私たちは逃げ込んだ。

「ふう……ひとまずここなら、奴らが襲ってくることはなさそうだ。チノン、さるとびさん、今のうちに消耗したMPを回復させておいてください。……たぶん、この奥はもっと厳しいですよ」
 非戦闘時のMP自然回復は、戦闘時のそれよりやや早い速度で回復する。さらに、MPを消費するタイプのスキルを使う職ならどの職でも習得できる<瞑想(メディテーション)>をすることで、さらにMP回復を早めることができる。

 ただし、<瞑想(メディテーション)>を使用している間は完全に無防備になる上、使用を中止した後も七秒間の硬直が付与される。
 そのため、ダンジョンやフィールド内での<瞑想(メディテーション)>使用には注意を払わなければならない。
 一般的に、<瞑想(メディテーション)>を使用している者以外のパーティーメンバーがその間の護衛を務めることが多い。

「でも、誰も踏破してないエリアを冒険するって、ワクワクして楽しいよね!」
「あぁ、そうだな嬢ちゃん。これぞ、俺の長年求めていたネトゲの醍醐味よ!……あぁ、もはやネトゲじゃ無くなってしまったけどなぁ……」
 チノンとさるとびさんが、<瞑想(メディテーション)>を使用している。本人たちの身体の周囲を、黄色のオーラが覆っている。この間、動くことはできないがもちろん会話などは可能だ。

「……さるとびさんって結構年季入ったネットゲーマーっぽいけど、前は何のネトゲをしてたんですか?」
 この人は何となく、自分と似たような臭いがする。
「ん……、ソウルズの前にやっていたネトゲか。……バウンダリーデザイア・オンライン」
「えっ! ……それ、私もやってました」
「ほぉぉ、あんなガチ勢だらけのネトゲを」
 バウンダリーデザイア・オンライン。それは私が生まれて初めてプレイしたネトゲ。中一の頃から高二までの約四年間プレイしていたMMORPGだ。
 当時としては高レベルのグラフィックで描かれたファンタジー世界で、ほのぼのが好きなまったり系プレイヤーから、長時間のフィールド狩りやレイド、PK(プレイヤーキル)が好きなガチ勢までをカバーした何でもありのゲームだった。

「……で、何年くらいやってたんだ?」
「中一の時から四年くらい……」
「そんな頃からやってたのか。って、おい、あのゲームは十五歳未満プレイ禁止だったんだが……昔の俺なら補導してたぞ」
「えっ、さるとびさんって警察官だったんですか……」
「昔の話な」
 まさか、お巡りさんがこんなゲームの中にいるなんて。
 ……まあ、お巡りさんだって人間だからゲーマーが居ても不思議じゃないけど。

 私とジュードさんは護衛のため、周囲に気を配りながら会話している。
 野良パーティーでダンジョンに行く時は、このMP回復タイムの時に結構会話をする事が多く、そこで意気投合してフレンドになったりすることも多いらしい。
 とは言え私の場合、このゲームの野良パーティーで知り合ってフレンドになったのは、オスカルだけだ。昔のように、ゲーム内で出会った人と積極的に交流していくことはすっかり無くなってしまった。
「ねー、ちーちゃんとタビくんってどういう関係なの? ……付き合ってんの~~?むふふ」
「べ、別にそういうのではないけど……。チノン、あんまり他人の関係を詮索しちゃダメよ」
 これまで、元の世界で幾度となく聞かれた疑問なので慣れてはいる。ゲームの中で聞かれたのは初めてだけど。
「ふーん……。じゃあ、あたしがタビくんにちょっかい出しても大丈夫なのだね??」
 背の低いチノンは普段から上目遣いだが、この時は意地悪な表情がプラスされていた。
「あのねぇ、なんでそうなるの…… というかチノン、あなたタビちゃんのこと……その、そういうのだったの?」
「ううん、違うよ。……でもこないだの夜、熱い抱擁を見ちゃったからつい気になって」
 他のメンバーに聞こえないよう、声のボリュームを下げて耳打ちに近い言い方をするチノン。
「あ……えっ!? あれは、その……」
「……こら、チノン。あんまりちいなさんをからかうんじゃないぞ」
「兄ぃは黙ってて! これは≪がぁるずとーく≫なのだからッ」
 兄・ジュードさんの注意にキッと睨み返す妹・チノン。

 ふと、数日前にタビちゃんの腕の中で泣いたあの夜を思い出す。
 タビちゃんとは中一で同じクラスになった時から面識はあったけど、仲良くなるまでは学校でほとんど話したことがなかった。
 ある日、バウンダリーデザイア・オンラインで知り合った男性プレイヤーとの「サシオフ」で危ない目に遭いそうになった時、偶然通りかかったタビちゃんに助けてもらったのが私たちの仲の始まりだ。

「さて、そろそろいいだろ。……先へ進まんか?」
 MPの回復が完了したさるとびさんが<瞑想(メディテーション)>状態を解き、『いいねぇ、若いもんは』と呟きながら準備運動をしている。