現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【27】Chapter 1.1 - 8

「……何にもないじゃない」
「宝箱すら無いとは…ガッカリだぜ。戻って先を行こう…」
 拍子抜けしたように、踵を返そうとするミハエルさんとアリサさん。
「待って!!これは……」
 突然聞こえた大きな声の主は、ヨードルだった。何やら四つん這いに屈んで、床を漁っている……。『探索』スキルを使っているのだろう。ここまでの道中でも度々四つん這いになるヨードルの姿が目撃されたが、俺はあえてそれには触れずスルーしていた。

【27】Chapter 1.1 - 8

 ヨードルが四つん這いの姿勢から立ち上がると、その手には金属製の手防具のようなものがあった。
「<ソリッドアイアン・ガントレット>……戦士系の装備かな? かなり耐久度が消耗してそうだけど、こんなのが落ちてたよ! まだあるかなぁ…… ……あった! <ホロウバットの翼>、これは素材だね。ここで、誰か死んじゃったのかなー」
 ヨードルの言葉に身体をびくつかせたのは、小部屋を出ようとしていたアリサさん。
「……!! みんな、すぐにこの部屋を出なさい!」
 その意味を理解したのは、アリサさんの呼びかけからワンテンポ遅れてからのことだった。
『探索』スキルを用いて得られるアイテムは、他のプレイヤーがその場で捨てたアイテム…もしくは、その場で戦闘不能やパーティーが全滅したことによるデスペナルティで紛失した所持品の一部。。

 つまり。ここで何か良くない事が起こり、誰かが死んだということ。
 それに気づいた時には、もう遅かった。
「!? 通路が!!」
 元来た通路の左右から扉が閉まるようにせり出してきた岩が、俺達五人の退路を断ってしまった。
「…やられたな」
 グラハムさんが剣を構え、どこからモンスターが襲ってきても対応できるように周囲をくまなく見渡している。
「アイテムが落ちていたということは、この部屋でパーティーが全滅したということ…。それなりのモンスターが襲ってくると考えた方がいいわね」
 アリサさんの推理は正しかった。
 周囲三六〇度を見回し、モンスターが襲来する瞬間を捉えようとしていた俺達は、既に襲来を受けていることに誰も気が付いていなかった。

 ゴゴゴゴ・・・

「え? なんだよ、この音…?」
「地震?」

 ゴゴゴゴゴ・・・・

「なんか、こういうのって……、大抵ヤバいやつ、だよな」
 いつでも剣を抜ける体勢をキープしながら、少し震え声のミハエルさん。

 ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

「あ……あれ」
 アリサさんが指さした先を見る。特に何の変哲もない、ゴツゴツした岩肌が見えるだけ……。

 ―――岩肌が動いたようが気がした。
 小部屋だと思っていたその空間は、決して狭い空間だったのではなく……、大型のゴーレムが待ち構えている広い空間だった。

『エルダー・ゴーレム<Enemy> Lv.30』

「うぉぉっ!! ご、ゴーレムだったのか!? <マジックランプ>の灯りだけじゃ、全然気づかなかったぜ……!」
「おい! デカいのが来るぞ!! みんな散れぇぇぇぇーーー!!」
 俺はグラハムさんの警告の意味が一瞬、分からなかった。それは、『探索』スキルの四つん這いの体勢から起き上がったばかりのヨードルも同じだった。もっとも、コイツはゴーレムの存在自体まだ気づいていなさそうだけど。

 ―――次の瞬間、<エルダー・ゴーレム>の全体範囲攻撃、<ディスラプト・アタック>は部屋全体、とりわけ俺とヨードルの二人に大きなダメージをもたらした。俺とヨードルはふっ飛ば《ノックバック》され、本物の岩肌に叩きつけられた。

「ぐ……あぁぁぁ!!!!!」
 痛い痛い痛い。全身がバラバラになりそうなほどの衝撃だ。元の世界なら激しい嘔吐に襲われていただろう。
(い、いてえ……!! とんでもねえ痛さだ。 森でゴリラにぶん殴られた時以来の……!! ヨードルは!?)
 ヨードルは倒れたままだ。HPゲージはまだ僅かに残っている。大きな苦痛に襲われたのは間違いないが、意識を失っているはずはない。……コイツは以前、一度死んだことがあると言っていた。その時の恐怖を思い出して、立てずにいるのかもしれない。

 グラハムさんとミハエルさん、アリサさんは散開していたためか、それほど大きなダメージを受けていない。……なぜ散開することが分かったのかは、以前やっていたネトゲで培われた勘なのか、あるいはそういったスキルなのか。

(俺のHPも八割以上削られてしまった。とにかく回復だ……!)

 ゴリラにぶん殴られた時よりは、幾分冷静になれているのが自分でも分かる。チノンのやつはもう、こんな痛みは慣れっこなんだろうな。
 それでも、立ち上がるのは痛みが伴う。頭がガンガンする。身体が重い。擦り傷、アザのできたところがジンジンする。

(……HPゲージが減るだけでいいじゃないか、こんな傷のグラフィック表現、要る!?)

「……なんかアイツら、やけに痛そうだな? ビックリして椅子から転げ落ちたか?」
 ミハエルさんが何か言葉を発している。俺にはその内容を脳内で吟味している余裕はない。
<応急療法(ファストエイド)>で俺の応急処置を済ませ、続けて詠唱時間の短い継続回復魔法、<波状療法(ウェイブヒール)>をヨードルにかけた。
 しかし、ヨードルは起き上がらない。
「おい、ヨードル! …ヨードル!! どうしたんだよ!?」

 俺は回復魔法をかけても起き上がらないヨードルに、何度も声をかけ続けた。……やはり、戦闘への恐怖は簡単に拭い去れるものでは無いのだろうか。
 その回復魔法の敵視ヘイト量を稼いでしまった俺に、<エルダー・ゴーレム>の重い一撃が決まろうとする瞬間―――
「おらあぁぁぁぁぁぁ!! こっち向けぇ、このデカブツが!!!」
 横から飛び入ったグラハムさんがゴーレムの一撃を弾き、更にカウンターのような攻撃スキルを叩き込んだ。
「タビト! ヨードルに<解邪療法(ディバリア・ヒール)>だ!」
<エルダー・ゴーレム>からの敵視ヘイトを向けられたグラハムさんが、更に敵視ヘイトを稼ぐべく煽動(インサイテッド)>を放ちながら、俺に向かって声を張り上げた。

<解邪療法(ディバリア・ヒール)>?

 確か、対象のパーティーメンバーの状態異常(デバフ)を一つ解除するスキルだ。あまり使ったことは無い。
 俺はグラハムさんの指南どおり、<解邪療法(ディバリア・ヒール)>の詠唱を始めた。詠唱時間は二秒と短めだ。
<解邪療法(ディバリア・ヒール)>の効果がヨードルに及ぶと、すぐにヨードルは起き上がった。
「ヨードル! 大丈夫か!?」
「もうっ……タビト! やっと『悶絶』の状態異常デバフ解いてくれたよ……苦しかったんだから」
 ヨードルは、怖くて起き上がれなかったのではなかった。
 単に、俺が回復役ヒーラーとして間抜けなだけだったのだ。

「よし……体勢を立て直して、このデカブツを始末するぞ、タビト」
 ハードボイルド闘士(ファイター)・グラハムさんはそう言うと、ニヤリとした横顔を見せた。