現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【26】Chapter 1.1 - 7

 洞窟の奥から湧いてきたサハギンの群れ十数体に向かって、チノンが敵視ヘイトを取るべく飛び込んでいった。レベル五十五のチノンにとってはやや格下の相手とはいえ、数が多い。
 対象の周囲に範囲攻撃をしつつ、敵視上昇効果ヘイトボーナスと四秒間の麻痺スタンを付与する<グラウンド・ブロウ>が命中すると同時に、三十秒間の回避率上昇と被ダメージを軽減する<シャドウ・ジャミング>を発動させた。

【26】Chapter 1.1 - 7

 チノンがモンスター達の敵視ヘイトを稼いだのを確認してから、俺はチノンへの継続回復と、敵集団への範囲攻撃魔法<胞毒針糸ヴェノム>の詠唱を始めた。壁役タンク敵視ヘイトを稼ぐ前に回復役ヒーラーが回復行動を始めると、その行動によってモンスター達の敵視ヘイトを稼いでしまい、チノンではなく俺が集中攻撃を受けてしまう。

 そして、ジュードとちいなが敵集団に飛び込んでいった。ジュードの<空烈旋風脚>がサハギン達十数体に命中する。大した威力ではないが、対象の斬耐性を一定時間引き下げる状態異常デバフ効果を付与することができる。
 ちいなの<アサルトスイング>。横薙ぎ一閃の、シンプルだが強力なスキルだ。そして斬耐性が低下しているサハギン達へのダメージはさらに大きい。さらにそこから重剣とは思えないほどの軽々しい動きを伴う連続攻撃により、次々にサハギン達の止めを刺していく。
 そして、ちいなの火力はサハギンに止めを刺すごとに増していっている。

(重剣闘士ソードウォリアーの<狂気高揚インサニティ・エンハンス>か)
 俺は七つあるスキル枠の一つにセットされた『診眼』により、周囲のパーティーメンバーと、直接敵対しているエネミー《敵》に付与されている強化効果バフ状態異常デバフを視覚化することができる。
 他人には見えていないが、俺の視界ではそれぞれの頭上にアイコンが浮かんでいるのだ。ちいなの頭上には、<狂気高揚インサニティ・エンハンス>を意味する赤いアイコンが表示されている。そのアイコンに表示されている数字は、サハギンを一体仕留めるごとに一つずつ増えていく。

 今のところ、何の心配も無い戦力に見える。<胞毒針糸ヴェノム>の詠唱が終わり、敵集団に命中した頃には十数体いたサハギンがもう七体にまで減少していた。
 そして程なくして、ダンジョン内での初戦を難なく終えることができた。

「楽勝♪みんなつよーい!」
「…チノン、油断しないでね。まだまだ沢山モンスターはいるし、奥には強いヤツもいると思うから」
 サハギン達からドロップしたアイテムは<サハギンの鱗>、<水神石>と、素材のみ。
 俺は生産職スキルにあまり手を出していないため、素材をゲットしたらその殆どをマーケットで売り捌いている。

 …だが、あまりドロップアイテムに気を取られている余裕は無かった。
 モンスターの気配がする。
「…ちいなお嬢さんの言う通りだな。どんどん来るぞ!」
 ダンジョンの奥からまた、十体ほどのモンスターが押し寄せてくる気配だ。
「どうやら、一定時間内に素早くモンスターを倒し、押し寄せてくるモンスターのペースより早く奥に進まないといけない…って感じかな?」
「そうと来れば、ここからはギア全開ね。…チノン、ある程度進めば退避スペースがあるはずだし、MPが尽きる前に一気に進みましょう!」
「おうよ♪…じゃあ、全力で突破しちゃうんだからっ!」


 ◆


 ヨードルがうっかり開けた宝箱から出現した<ミミックジュエル・リザード>を倒した俺達はその後も数個の宝箱を開け、さらに三体のミミック系モンスターを処理しつつ、大空洞の中心部に向かって進んでいた。
 ここまでの大空洞内は安全と言える退避スペースがほとんど無く、どの地点に居る時も周囲に巡回モンスターが居ないかどうかに神経をやりつつの進行となっていた。
 巡回しているモンスター自体は単体でも、そいつに見つかってしまえば、周囲にいる数体のモンスターと呼応リンクして引き連れてくることになるかもしれない。
 実際、それでここまで三回ほど巡回モンスターの感知範囲に引っ掛かってしまい、無用な戦闘に突入してしまった。

(まぁ、レベリングやスキル上げしに来てるんだから、戦闘自体はいいんだけど。問題は複数の巡回モンスターを引っ掛けてしまって、乱戦になることなんだろうなー)

 正直、前方はミハエルさんやグラハムさんが監視してくれているからまだいいとして、この薄暗い大空洞の中で常に左右と後ろに気を張りながらの移動は疲れる。
 それでも、この役目はパーティー全体のミッションを監督する立場にあるヒーラーの仕事なのだと思う。

「ねぇ、こっちの部屋って行ったことあったかしら…。私の地図では、この先はマッピングされてないから」
 アリサさんが指差した先、左手に見える空洞内の通路らしき道の先に、ぽっかりと空いたような空間があるように見える。
「…ああ、こっちは行ったことないな。俺の地図も埋まっていない」
「オレもだね。多分こっちのルートは来たことがあるんだろうけど、左の部屋には行ったこと無いっぽいな」
 三人とも、何やら目の前で手を動かしている。きっと、地図が表示されているんだろうけど…。
「地図?俺の持ち物やステータスに、それらしき項目はない…」
「僕も…」
「なんだ、お二人さん、地図持ってなかったのか…<魔法の地図(マジカルマップ)>は冒険者の必需品だぜー」
「<魔法の地図(マジカルマップ)>?」
「これ一枚持ってれば、あらゆるダンジョンの地図埋め(マッピング)を自動でやってくれるわ。ただし、自分がちゃんと歩いた範囲だけね。…ミハエル、ちょうどあなた、余分に二枚持ってなかったかしら」
「えっ!? こ、これは後で出品しようと思ってた売り物で…俺が自作したんだけど。アリサ、お前本当に目ざといな…。いいよ。タビトとヨードルにあげる。ただし、素材いくつかと交換な…」

「そ、そんな、悪いっすよ! せっかくの売り物に…」
「いいよいいよ、むしろ、タビトやヨードルみたいなヤツのために作ってるようなものなんだ。初心者を大事にしないネトゲってのは、早々に廃れちまうからな」
「ミハエルさん…ありがとう!」
(だから、ミハエルさんも俺達と同じくらいのレベルだろ!? っていう突っ込みは無しとして、、心遣いは嬉しいな…)

 俺とヨードルは、ここまでの道中で得たいくつかの素材をミハエルさんに渡し、<魔法の地図(マジカルマップ)>を受け取った。
 さっそくアイテム欄から<魔法の地図(マジカルマップ)>を選択してみる。
 すると、目の前に現れたのはほとんどマッピングされていない<レーマナグダの大空洞>の地図。今、ここまで歩いてきた部分だけがマップ表示されている状態だ。

「へぇぇ、これは便利だぁ!」
 同じく<魔法の地図(マジカルマップ)>を目の前に開いているのか、感心するヨードル。
「じゃ、ちょっと左側の部屋に行ってみようぜ」
「…おう。大型モンスターが居なきゃいいけどな。ま、その時はすぐ出てくればいいか」
 ミハエルさんが先導して、左手の通路を進んでいく。それに付いて行くグラハムさん、アリサさん、ヨードルと俺。
 天井が低く、やや狭い通路の先は、少し天井の高くなっているぽっかりと空いた小部屋のような空間だった。