現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

Web小説やネトゲの話、副業の話などなど

【25】Chapter 1.1 - 6

 ◆

「ここ、未踏破じゃん!ちーちゃん、もし踏破できれば、あたしたちの名前が記録されるんだよね!?」

 ひんやりとした湿度の高い、ところどころに生えた苔のようなもので足場が滑りやすくなっている滝壷の洞窟。俺たち≪猫と蜂蜜(キャットアンドハニー)≫の高レベル帯のメンバーとちいなは、狩りの休憩中にたまたまチノンが見つけたこのダンジョンエリアに足を踏み入れていた。

「そうね。初踏破者として、パーティーメンバー全員の名前が記録されるわ。それに、初踏破者には冒険者ギルドから特別報酬がもらえるの。…私たちより先にダンジョンに突入したパーティーが居なきゃいいけどね」

【25】Chapter 1.1 - 6

 このソウルズ・ワンダーリングでは、レーマナグダの大空洞やキェール灯台のような大型の有名ダンジョンだけではなく、フィールドの地形上で突発的に生成された小型のダンジョンが出現することもある。
 ダンジョンの入り口を調べて出てきた情報は、
『滝壷の洞窟 ★★★★★★★★ 四人~六人パーティー推奨 Lv.55~推奨 滝の裏側に突如として生成されたダンジョン。中からは強いモンスターの気配がする。【初踏破者:未踏破エリアです】』
 とのことだ。ダンジョン名の『滝壷の洞窟』の文字が赤い。つまりここは俺にとっての未踏破エリア。それはもちろんだが、【初踏破者:未踏破エリアです】と書いてあることから、このダンジョンは生成されてからまだ誰にも踏破されていないことを意味する。


 俺の名はさるとび。昔からネトゲをやる時はこの名前でプレイしている。元の世界では賀川 雅徳(かがわ まさのり)という名前だ。歳は五十一歳。いいオッサンだ。こういうゲームじゃ場違いなほどの高齢かと思いきや、意外と俺のような壮年プレイヤーが多いのもソウルズの特徴だ。

 …なぜか? ネットゲームの黎明期を体験し、当時夢にまで見たVRMMOが今、現実のものになっているんだよ。これをやらずに死ねるかって言うんだ! …そんな奴が結構いる。
 俺もまた、かつてアニメや小説でしか疑似体験したことの無かったVRMMOを夢見た男の一人だ。当時下っ端の歯牙無い刑事をやっていた俺は、非番の日は一日中ネトゲ、仕事中もずっと頭の片隅でゲーム内の戦闘シーンやBGMを反芻していたというロクでもない公務員だった。

 幸い田舎の勤務だったからロクな事件も起きず、非番の日に駆り出されることは殆ど無かった。だがある日、その地域では数十年に一度しかないような殺人事件の捜査が大詰めという時に、俺は当時やっていたネトゲ内でネームドモンスター、つまりフィールド上で稀に出現ポップするレアモンスターを探すための張り込みに熱中していた。気が付けば、俺の携帯電話には無数の着信履歴と留守番電話が…。その後懲戒処分を受け、俺はすぐに依願退職した。

 幸い俺は、県警で仲の良かった奴からこっそりと警備会社の仕事を紹介してもらい、そこで何とか食い繋いだ。警備会社の仕事はヌルく、自由な時間もたっぷりとあったが、さすがにネトゲで痛い目を見た直後なこともあって、以前ほどネトゲにのめり込むことは無かった。

 しかし俺が警察を辞めてからちょうど十年後、ついにVRMMOの開発が始まったことをゲーム系のニュースサイトで知った。さすがに今の技術では、以前小説で読んだような精神ごとフルダイブするような物にはならないと考えていたとはいえ、嬉しすぎて居ても立ってもいられず、すぐ当時のゲーム仲間に連絡を取り、数年後にやってくるであろうサービス開始後の想像を語り合った。
 数年後、俺も参加したオープンβテストを経て、『ソウルズ・ワンダーリング』のサービスは開始された。
 ―――そして一か月ほどして、俺はソウルズの世界に閉じ込められた。

「あまり、奥行きはなさそうだな。それほど広いダンジョンではないだろう。だが推奨レベルは五十五と高い。皆、慎重に進もう」
 ジュードの慎重な提言にちいなも小さく首を縦に振って同意する。
「ダンジョン内は、狭いながらもかなりの数のモンスターがうろついてるな。…奥には高レベルの大物もいそうな気配だ」
 俺は現在七枠セットしているスキルの一つ、『智覚』を使用して得た情報を皆に伝えた。
『智覚』は、自分の周囲一定の範囲に存在するモンスターやプレイヤーの存在を認識することのできるスキルだ。
 今の俺のスキルレベルではおぼろげに数の大小やレベルの高低が分かる程度だが、スキルレベルが上がれば認識できる範囲の拡大や、認識した対象のレベルや明確な位置や数が分かるようになる。

「数が多いなら、壁役タンクはチノンに任せて私は攻撃役アタッカーに徹するわ。…私の火力は、エネミー()の数が多いほど伸びやすいから」
「うん、わかったー。じゃ、先導はあたしが」
 ちいなとチノン。この二人はそれぞれ重剣闘士ソードウォリアー魔法剣士マジックナイトという壁役タンク職だ。
 俺の経験だけでなく一般的には、ネットゲームにおいて女性プレイヤーが壁役タンク職をメイン職に据えていることは、あまり多くない。
 大体、女性プレイヤーは回復ヒーラー職が多く、次いで遠隔物理レンジ職や魔法攻撃キャスター職が多いのだ。

 かく言う俺も回復ヒーラー職、タビトも回復ヒーラー職だが、悲しいかな、タビトがどう思われているかは知らんが、男の回復ヒーラー職ってのは時としてパーティーからハブられることがある。やはり皆、どうせ癒されるなら可愛い女の子ヒーラーに癒されたいのだろう。

『男のくっせぇ回復ヒールなんかいらねーよ!』
 俺は昔やっていたネトゲで、本当にこんな事を言われたことがある。…だが、俺は回復ヒーラー職が好きなのだ。

「…いきなり一気に来たな。数は十数体、人型モンスターだ。このままだと囲まれる。少し後方に退こう、チノン」
『智覚』スキルのおかげで、大挙するモンスター群をパーティーメンバーより早いタイミングで察知することができた。常に他のパーティーメンバーよりも二歩、三歩、戦局の先を読んで行動するべき回復ヒーラー職には、うってつけのスキルだと言えるだろう。

 俺たちは四人揃って十数メートル後方に退き、接近するモンスターの群れに後ろを取られないような位置取りを確保した。そうする事で壁役タンクは自分の前方に意識を集中でき、敵集団の敵視ヘイトを取りやすくなる。また、後衛に不意の被弾が向かうことを予め防ぐ事もできる。

 前方九十度ほどの範囲から『ギャギャギャ、ギャーーッ』という咆哮と共に、剣や杖、弓を持った半魚人型のモンスターが押し寄せてきた。

『サハギンナイト・エビル<Enemy> Lv.51』
『サハギンプリースト・エビル<Enemy> Lv.51』
『サハギンアーチャー・エビル<Enemy> Lv.51』

「まずは初めての侵入者への洗礼ってわけか…洞窟の奥に何があるか、楽しみになってきたな」
 チノンが魔力剣を発動させ、サハギンたちに接近しつつ≪グラウンド・ブロウ≫の構えに入る。
 俺は癒器、<アズライト・シーダーワンド>を構え、いつでも回復ヒール行動に入れる体勢を取った。