現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【23】Chapter 1.1 - 4

≪レーマナグダ大空洞≫は、リンネの街から馬車で三十分ほど北西へ行った東レーマナグダ地方にある、大きな岩山の内部をくり抜いたような空間が地中に向かって突き刺さったような形状の大空洞だ。
中はモンスターの住処になっていて、定期的に集団で大空洞から出てきては、リンネの街周辺部まで接近して近隣住民や駆け出し冒険者に人的被害をもたらしている。
そのため冒険者ギルドからのダンジョンモンスター討伐依頼が豊富にあり、素材も高く買い取ってくれるため、レベル二十五から三十五あたりのプレイヤーには人気のダンジョンとなっているそうだ。

【23】Chapter 1.1 - 4

「やあ、今日も結構人いるなぁー」
ミハエルさんが暢気に言う。ダンジョンの入り口前には、俺たちと同じくらいのレベル帯の冒険者たちと、その冒険者たちに薬や装備品を売ろうとする露店でひしめいていた。
露店の営業主は、冒険者・NPC関係なく居るようだった。皆、商売熱心だこと。まるでお祭り会場のようではないか。
「な、なんか気ぃ抜けるな、、ヨードル」
「う、うん。ダンジョンって、こういうものなの…?」
…そうだ。俺達ログアウト組にとって、ソウルズ・ワンダーリングの世界は生活の場、実際に生きた世界そのものだ。少なくとも現状は。
だけど、恐らく全プレイヤーの大半と思われるログイン組にとっては、ただのネトゲ。ただのゲームなのだ…。
(このどこか緊張感に欠けた雰囲気は、その温度差によるものか…)

「さて、装備とアイテムの最終チェックをしたら突入するわよ? 一度ダンジョンに突入してしまうと、全滅しない限り一時間は出られないからね」
「「えっ」」
アリサさんの呼びかけに、ヨードルと俺はほぼ同時に声を発した。
「もしかしてあなたたち、ダンジョンは初めてかしら?」
「俺は二回目…」
「僕は初めて…です」
「おっ、なんだそうだったのか。ダンジョンってのはフィールドと違って、いつでも出入り自由ってワケじゃない。一度入ったら一時間は出られないし、一旦出ると更に六時間のインターバルを置かないと再突入できないんだ」
顎ヒゲを風に靡かせ、右手で腰の剣をカチャカチャといじって音を立てるグラハムさん。
「一度入ったら最低一時間…か。簡単には死ねないな。ヨードル、いっちょやってやろうぜ!」
「…う、うん。怖いけど…」





まだ昼過ぎの時間とはいえ、大空洞の中は暗く、ひんやりとした空気感だった。グラハムさんを先頭に、蟻の巣のように入り組んだ空間を進んでいく俺達五人。
ダンジョンでは必須アイテムの<マジックランプ>を使っているため、俺達の目線より少し高い位置で小さな火の玉が付いてきている。こいつが松明の役目を果たしているわけだ。

「ダンジョンの中には他のパーティーもいるらしいけど、突入時点では別々の地点に飛ばされるからね。序盤で他のパーティーに出会うことは稀なんだ」
「ミハエルさん、俺達って今、どこか目的地に向かっているのかな?」
「あぁ、モンスターが沢山湧いてくるポイントがあってね。そこに向かっているよ。それから、道中の宝箱には気を付けてね。罠やモンスターが潜んでいたりするから、先にアリサのビーストに匂いを嗅がせてからだって、、あ」

時すでに遅し。
俺達四人が気づかずにスルーしようとしていた物陰に隠されていた宝箱を、『探索』スキルで発見したヨードルが嬉々としながら開錠するところだった…。
宝箱の大きさは、一メートル四方といったサイズだろうか。意外と大きなサイズに思える。
「タビト、こんなところに宝箱があったよ! 上げててよかった『探索』スキル!」
「ちょ、待てヨードルーー、あぶねーって!!」
俺は心配して、ヨードルの方に駆け寄った。
ヨードルが無邪気に宝箱を開けるとそこには……目もくらむような金ピカの装飾品や宝石、金銀のインゴットに埋め尽くされていた。
「おおおおおヨードルうううううううすげーーーー」
俺はもはや、数秒前の俺ではなくなっていた。
「タビト!!!! 僕達、やったよ! やったんだね!! 大金持ち!」
ヨードルと俺は、固く抱擁し合った。これでっ…ソウルズでの生活は安泰だっ!美味い物を食い、寝たい時に寝て、装備強化し放題でとうとう俺にも、俺ツエーの展開が…

「二人とも、離れなさい!!」
アリサさんの厳しい口調の声が響く。ん?なぜ?
見ると、アリサさんの連れていた可愛らしい羊のようなビーストはその面影のほとんどを消し、まるで白く輝くライオンのような見た目になっていた。
『カハァーーーッ!!』
ビーストの口から咆哮と共に発射されたエネルギー体は宝箱に直撃し、宝箱は財宝ごと跡形も無く蒸発してしまった…と思いきや。

「こ、、これは!?」
ついさっきまで宝箱があった場所に、もはや財宝はなく…そこに『いた』のは…。

『キシャァァァァァァァァッ!!!』
「ひ、ひゃあああああああああああ!!!!」
財宝だと思っていたそれは――――金色のゴツゴツした皮膚に宝石や装飾品、インゴット類のようなものが無数に付着した、、<ミミックジュエル・リザード>だった。

『ミミックジュエル・リザード<Enemy> Lv.28』
思わずターゲットして調べてみる俺。視界の上部には同時に、奴のHPバーも表示された。

「な、なんじゃこりゃあああああああああ」
「二人とも、下がれ! 俺が敵視ヘイトを取る!」
グラハムさんはそう言うと<ミミックジュエル・リザード>へ一足飛びで近づいていき、眼前に構えた両手剣からゆらゆらとしたオーラを円状に発した。
「<煽動(インサイテッド)>っ!」

闘士ファイターの持つ敵視ヘイトを稼ぐためのスキル、<煽動(インサイテッド)>のオーラを浴びた<ミミックジュエル・リザード>の標的は、宝箱を開けたヨードルとアリサさんのビーストから、グラハムさんへと移ったようだ。

「あ、あいつの身体どうなってるんだ。宝石が沢山付いてるけど…」
「あれはお宝じゃないよ、タビト。お宝に見せかけた身体の一部さ。洞窟に潜り込んできた冒険者を油断させて捕食するために、ああいう風に進化したんだな、うん」
「…ミハエル、解説は後」
「おうよ。じゃ、将来のソウルズを背負って立つ英雄候補の剣士様である俺の、華麗な一撃いくぜっ!」
(は、恥ずっ!! そういうのは思ってても言わないっていうか、心にそっと秘めておくもんじゃないのか!?)
俺は心の中でそっと突っ込みを入れながら、二割半ほど減ったグラハムさんのHPを回復すべく、<応急療法(ファストエイド)>の詠唱を始めた。

「まずは…<剣気勇猛ヴァリアント・フォース>!」
ミハエルの使用したスキルによって、彼の身体は赤いオーラの膜のようなものに包まれた。
そのオーラを見ていると、何かこちらも力が湧いてくるような感覚だ。

「<剣気勇猛ヴァリアント・フォース>とは…三十秒間、自らの攻撃力を四十%、周囲のパーティーメンバーの攻撃力も十%上昇させる剣士の強化効果バフスキルだ!」
ミハエルさんの自己解説。いつも思うけど、三十秒間とか何となく短いような感覚になるのはなぜなのか…まぁ、MMOのスキルってこんなものか。

強化効果バフスキルを使ったら早く行きなっ!!時間が勿体ない!」

アリサさんに背後から、ヒールっぽい靴を履いた足で『げしっ』と小突かれるミハエルさん。
ご褒美か何かかな…。