現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【22】Chapter 1.1 - 3

 俺はスキル案内所の受付NPCに、『彫金』『採掘』『MND(精神力)上昇』『INT(魔法攻撃力)上昇』の<入門書>を購入する意思を伝えた。

 入門書は『彫金』『採掘』がそれぞれ三千ゴールド、『MND(精神力)上昇』『INT(魔法攻撃力)上昇』はそれぞれ千五百ゴールド。合計で九千ゴールドの出費になる。
 駆け出しプレイヤーとしては決して安い出費ではないが、≪アクシズ≫のメンバーを倒した時に得た幾分かの戦利品のおかげで、俺の手持ちゴールドは二万四千ゴールドになっていたため、何とか支払うことができた。

【22】Chapter 1.1 - 3

「はい。かしこまりました。……どうぞ、こちらが<入門書>になります。アイテム欄に入れておきますね。ところで、スキル習得は初めてですか?」
「あ、はい。初めてです」
「それではこちらの<スキルカード>もお受け取りください。どちらも、使用するのを忘れないでくださいね」
「ありがとうございます」

 俺は受付のNPCさんにお礼を言うと、さっそく受け取った<入門書>をアイテム欄から開いてみる。まずは『彫金』。
 すると、入門書はひとりでにザーーッと高速でページをめくり始め、その内容が一気に俺の頭の中に流れ込んでくるような感覚に襲われた。
 ページをめくり終えた頃には、彫金レシピ十七種類と、基本的な製作の方法が頭に入っていた。スキルの上限レベルは十。製作をすることで経験値を取得できるようだ。
 レベル二までに必要な経験値は、一万五千。レベルが上がるごとに、新しいレシピを覚えられるのだろうか…。
 また、製作の方法とは言っても職人的な難しい技術は必要なく、とりあえず彫金道具を手に持ってそれっぽく動かしていくことで製作が進んでいくようだった。

(狩りから帰ったら、彫金道具を購入しないとな。さて、どんどんスキルを習得していこう)

『採掘』を習得。スキルの上限レベルは十。採掘をすることで経験値を取得。やはりフィールドでの採掘作業が主体になるらしい。また、ダンジョンでも採掘ポイントがあるようだ。

(ダンジョンではレアな鉱物なんかが採れたりするのかな。狩りに出る前に、よろず屋でピッケルを買っておこう)

MND(精神力)上昇』『INT(魔法攻撃力)上昇』を習得。スキルの上限レベルは四。これならわりと短期間でマスターできてしまいそうな気がする。『MND(精神力)上昇』は回復スキルを使うことで、『INT(魔法攻撃力)上昇』は攻撃魔法スキルを使用することで経験値を稼ぐことができる。

「これでよし…と。あ、そうだ。<スキルカード>。これも使えって言われたけど、何だろうこれ」
<スキルカード>をアイテム欄から具現化して使ってみた。すると、目線の上あたりに見慣れないユーザーインターフェースが出現し、そこには今習得したスキルレベルの進捗状況や、スキルレベルごとに得られる効果や能力が表示されている。
「なるほど、こいつで確認しろってことか…。よし、あとはクエストの受注だな」
 俺はスキル案内所を後にし、冒険者登録カウンターを挟んで向かいにあるクエスト掲示板へと向かった。

 今、お昼の十二時くらいだろうか。冒険者登録カウンターの方を見ると、十数人のプレイヤーが列をなしている。あそこに用事がある人は二種類いて、一つはソウルズを始めたばかりのプレイヤー、そしてもう一つは他都市を拠点としていて、初めてリンネの街を訪れたプレイヤーだ。

 ソウルズ・ワンダーリングは日本で開発された、国産VRMMORPGだ。まだサービス開始から日は浅いが、ゆくゆくは北米や欧州、中国、韓国などでも展開する予定らしい。
 現在は日本国内のみで運営されているため、平日昼間は人が少なくなりやすい。そんな時間帯にログインできるのは、ニートや暇な主婦、フリーターと相場が決まっている。

(昼間のわりに、人が多いな…。今日は土日なのか?……ソウルズの中で曜日を確認できる情報はないから、もう俺には曜日の感覚がない。そもそも俺はもうソウルズの住人。向こうの文化の記憶なぞ、とっくに電子の藻屑へと投げ捨てておるわ!)


 ◆


「あ、タビト、こっちこっち」
 冒険者ギルドのロビーで、ヨードルが俺に手招きをしている。
 クエストの受注を済ませ、併設されているよろず屋でピッケルや回復アイテム数点を購入した俺は、ミハエルさんたちに合流した。
「おっ、来たか。オレ達も、装備やらアイテムのチェックを終えたところだ。ま、駆け出し同士、気楽にやろうぜ、タビト!ヨードル!」
 ミハエルさんたちの装備は、俺の貧弱な装備よりも数段良いものに見える。ちゃんと全部位、今のレベルにある程度見合ったものを装備しているようだ。
(…というより、俺の装備が貧弱すぎる。ヨードルの装備も、ミハエルさんたちと遜色ないし)

「さて、どうする?五人いるし、クラス構成も壁役タンク、ヒーラー、アタッカー三人。これなら、ダンジョンに行ってもいいと思うんだがな」
 ハードボイルドなグラハムさんが提案する。
「え…ダンジョン…ですか。俺達、その…」
(確かに、この構成ならダンジョンへ行けるだろうけど…。さるとび師匠に言われた一週間後のダンジョンより、先に行っちゃっていいのかなぁ)

「タビト、ダンジョンが怖いのかい?気楽な気持ちで行ってみればいいんじゃないか?…なぁに、モンスターにやられて死んだっていいじゃないか。チャレンジして死ぬのは、決して恰好悪いことでも、恥じることでもないぜ。死んだら、なぜ死んだか、次からどうすればいいかを考える。その繰り返しが、俺達冒険者を強くしていくのさ」
 俺はミハエルの言葉にハッとなった。冒険者として強くなるための心構えの言葉に、ではない。

『ログイン組』にとって、ソウルズ・ワンダーリングはただの『ゲーム』に過ぎず、また、ゲーム内の『死』は死ではない。何の痛みもなく、当たり前のように復活ができて、ヘラヘラしながら同じダンジョン、同じ敵に再挑戦することが容易にできる。
『死』が死でないのは俺達ログアウト組もそうだけど、痛みや恐怖に関しては別だ。死に伴う苦しみをリアルに感じる俺達と、ミハエルさん達の間には大きな、大きな溝がある。
 当然ながらミハエルさん達は、そんな事情を知る由もない。

「た、タビト…大丈夫かな」
 俺にだけ聞こえるよう、こっそりと声をかけてきたヨードル。
 俺達二人を、漠然とした不安が襲った。