現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【20】Chapter 1.1 - 1

 スキル案内所は、≪Rainwater(レインウォーター)≫一階カフェスペースの端に衝立で仕切られた四畳半ほどの空間だ。各種スキルについての案内パンフレットと、<入門書>を購入するための端末装置が置かれている。冒険者ギルドのスキル案内所には数人の受付NPCが配置されているが、既に二人雇っている雇用NPCに加えて、そこまでの人件費を払う余裕はないらしい。

【20】Chapter 1.1 - 1

「一、二、三…十八種類か」
Rainwater(レインウォーター)≫のスキル案内所に置いてある<入門書>は十八種類。ソウルズに存在するスキルは八十とも百とも言われており、まだ全てが判明してはいないようだ。

 俺が今いるスキル案内所のように、都市内で容易に入手できるものから、モンスターとの戦いの中で偶然に入手できる<入門書>、冒険者が特定の行動をした結果、突然具現化されて入手できる<入門書>、レイドダンジョンなど一部の場所で稀に入手できる<入門書>など、その入手方法は多岐に渡るそうだ。

「裁縫、革細工、彫金、栽培、調理、鍛冶、調合、分解、伐採、採掘、釣り、STR(物理攻撃力)上昇、DEF(物理防御力)上昇、VIT(体力)上昇、INT(魔法攻撃力)上昇、MND(精神力)上昇、AGI(敏捷性)上昇、DEX(器用さ)上昇…」

 当然というかこの手のRPGのお約束として、、開始都市で初心者プレイヤーの多く集まるリンネの街では、スキル案内所で入手できる<入門書>も基本的なものしか入手できない。

(ここで習得できるスキルですら十八種類…どうする、スキル枠たった四つじゃあ、、迷うなぁ。みんなは何のスキルをセットしてるんだろうな。冒険者ギルドのスキル案内所も覗いてみるかなぁ)

 冒険者ギルドには受付や解説係のNPCもいるし、他の冒険者の出入りも多い。新しい出会いだってあるかもしれない。
 俺は最近気に入っている<ベーコンエッグサンド>と<ルドラコーヒー>を雇用NPCから購入してアイテム欄に収納し、リンネの街中央部に位置する≪冒険者ギルド≫へと向かった。


 ◆


 リンネの街、冒険者ギルド。
 街の中央部に位置するレンガ造りの大きな建物には、スキル案内所やクエスト斡旋はもちろん、この街でクエストを受けるのに必要な冒険者登録をするためのコーナーや、定番の冒険者酒場などがある。NPCの職員も多く、高機能なAIのおかげかコミュニケーションには困らないため、NPC目当てに必要以上に立ち寄る冒険者も少なくない。

「…ここも置いてある<入門書>は十八種類。あっちと同じか」
「こんにちは!スキルをお探しですか?」
 NPCの職員さんに話しかけられた。長い黒髪を後ろでまとめた、いかにも事務員らしい制服に身を包んだ女性だ。種族は俺と同じヒューマン。歳は…俺より少し上くらいかな。

「あぁ、はい。まだ一つもセットしてなくて…枠が四つしかないから、どれがいいか迷ってるんです」

「そうでしたか…スキル枠は、一定数のスキルをマスターするごとに枠が拡張していきますよ。『STR(物理攻撃力)上昇』などのステータス上昇系スキルは比較的簡単にマスターできるので、マスター数を稼ぐ意味でも常に一つはセットしておくのがお勧めですね~」

「なるほど。…でも、そんなショボスキルで枠を埋めてしまっていいのかなぁ。結局外すことになるんじゃ」

「いえいえ!確かに、一度セットしたスキルを外してしまうとスキルレベルはリセットされてしまいますが、スキルをマスターした状態で外せば、本人のステータスに一定の還元がされますよ!なので、どんどんマスターさせて、しょぼいスキルは別のスキルにセットし直せばいいんです」
 腕を組み、得意げに語る職員さん。

(ハキハキして快活な職員さんだなぁ。『NPCとはいえ、AIによって一人一人が、生まれてから死ぬまでの人生を生きている』ってジュードさんが言ってた。彼女は、この仕事がよっぽど好きなのかな)

「俺、自分の装備も作らなくちゃなぁと思って。そしたら生産スキルも要りますよね?…枠を考えると、やっぱ厳しいなぁ」
「その点もご心配なさらず。生産系のスキルと採集系のスキルは、枠から外してもリセットはされません!…ただし、使わないでいると腕は鈍ってくるので、段々と経験値が失われていきます」

「そういうことだったのか!分かってきたぞ~」
「ふふっ。じゃあ、良いことを教えてあげる。マスターした戦闘系のスキルを外す時に、そのスキルを『結晶化』して装備の材料に使うことで、その装備を身に着けている間はスキルをセットしているのと同じ効果を得ることができるんですよ」
「結晶化?」
「そう。スキルを結晶化したい時は、『結晶化』スキルを持った人にお願いするか…」

 職員さんは俺に近づき、耳元でくすぐったい吐息と共にこう囁いた。
「…私のところへいらっしゃい」

「え、職員さんも、そんなことできるんですか?」
「そうよ。……あ、これは内緒ね。私が『結晶化』スキルを持っているなんて知れたら、ギルドに人が殺到して冒険者さんは商売あがったりになっちゃうもの」
「…なるほど。じゃあその時は、こっそりとお願いしますね。ありがとうございます!」
「うんうん。私はライラ・セーデルステーン。タビト君、あなたの冒険に旅の神・ハーメスの加護がありますように」
「よろしく。ライラさん」
 ライラさんは俺と親睦の握手を済ませ、ばいばい!と小さく手を振りながら持ち場に戻っていった。

(さて…スキルの仕組みも少しは分かったことだし…)

 癒器作成や宝石、金属の精製ができる『彫金』スキル。
 精製に使う鉱物などを取得できる『採掘』スキル。
 回復力や魔法防御力、MPが上昇する『MND(精神力)上昇』。

「この三つは今のところ鉄板かなぁ。あと一枠は…スキル枠を増やすのを優先するなら、ステータス上昇系スキルだけど……ん?あれは」

 クエスト斡旋コーナーに掲示されている各種クエスト案内を物色している小柄な少年がいた。ヨードルだ。
「ヨードル!」
「タビト君か。…スキルを選んでるのかい?」
「ああ、とりあえず三つは決めたんだけど、後の一つを何にしようかと思ってるんだ…。って、こんな人の多いとこに居て大丈夫なのか?」

≪アクシズ≫を撃退したとはいえ、奴らが消えてなくなったわけではない。装備がダメになっても、ヨードルが一人の時を狙ってしつこく付きまとってくるかもしれない。

「…あのギルドは崩壊して、バラバラになったよ。なんでも、リーダーのグリニーが自分だけ一層豪華な装備にしたせいで、修理代も残ってない事に腹を立てたメンバーと騒動になったとか。おまけにリーダーのギルド資金使い込みも発覚して、次々にメンバーが脱退して解散したって」

「へぇぇ、そこまで読んでたとは、さすがジュードさんだ。ヨードルも、普通に生活できるようになって良かったじゃん!」
「…怒ってないの?タビト君は。僕は初対面で、君に凄く冷たく当たってしまったのに…」
 意外そうな顔で俺を見上げるヨードル。小柄で華奢な銀髪の少年の容姿は、まるで妖精のそれだ。

「え、全然気にしてないよ。…そんなこと気にしてたのか」
「よ、、、良かった~~。こないだあんな事言っちゃった手前、タビト君とどう接していいのか分からなくて」
 突然緊張が解けたように、ヨードルの口調がほぐれた。表情も、凄くホッとしたものに変わっている。
(なんだ、普通にいい奴じゃん)

「じゃあ、、改めて。同レベル帯同士、頑張っていこう。よろしく、ヨードル!」
 俺はあの時のように、右手を差し出した。

「タビト君…ありがとう」

「君なんか付けなくていいよ」

「あはは。…よろしく、タビト」

 ヨードルと俺の右手は、今度こそしっかりと握り合った。