現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【19】Chapter 1.1 - 0

Rainwater(レインウォーター)≫はカウンター席とテーブル席、クエスト掲示板やスキル案内所の置かれたカフェスペースの一階、ギルドのイベントなどで大人数への貸し切りに向いたパーティースペースの二階、そして三階はギルド≪猫と蜂蜜(キャットアンドハニー)≫専用のギルドスペースだ。

 ギルドスペースとは、一つのギルドメンバーだけで占有できる空間のことで、様々な家具を設置してインテリア性を高めたり、会議スペースを置いたりメンバーの個室を設置することも可能らしい。
 個室などは、一定のゴールドをシステムに納める事で機能拡張ができる。どこまで拡張ができるかはギルドスペースの立地によって変わってくるようだ。

【19】Chapter 1.1 - 0

 三階、≪猫と蜂蜜(キャットアンドハニー)≫ギルドスペースのリビングルームでは、朝からゴソゴソとジュードさんとチノン、さるとび師匠の三人が装備やアイテムの最終チェックをしていた。
 所持アイテムは手に持つ必要がなく、その都度データ化したり、使用時にはアイテム欄から実体化して使うことができるのだ。

「というわけで今日は僕達、ちいなさんと狩りに行ってくるよ。あぁ、店番はNPCの子に任せてるから、心配しなくていい。タビト君たちも、自分のやりたいことをやっておいで」
「分かりました。三人とも、いってらっしゃい。ちいなのこと、よろしくお願いします」
「いやぁ…彼女は強いからね。むしろ僕達の方がよろしくされる方じゃないかな、はははっ」

「ちーちゃんと狩り♪ちーちゃんと狩り♪…買ったばかりのこれ着ていこうかなぁ!ねぇタビくんどう!?」
 チノンは、マーケットで買ったばかりというフリフリの白いドレスと赤いサンダルを装備状態にして、自慢げに俺に見せつけてきた。装備と言っても俺の目の前で生着替えしたのではなく、装備メニューからアイテムを選択すれば一瞬で切り替わる。これは戦闘では何の役にも立たない、主に街などで着るような普段着系の、いわゆる『オフ装備』だ。

「はぁ…チノン、狩りなんだからガチ装備に決まってるだろ」
「むー、分かってるよぉ、タビくんも釣れない男ねぇ…そこは顔を耳まで真っ赤にして『こ、こいつ…可愛い!』とか心の中で叫んで照れ照れするのがテンプレなのに!」
 俺は鼻で笑ってやった。ネレリグ族は小柄でどっちかと言えば幼児体型に近いため、こんな恰好をしても中学生の子供が背伸びしているようにしか見えない。
「チノンちゃんよ…俺はこれでも『向こうの世界』では、お姉さんキラーと周囲から命名されていた男なんだぜ…君のように未成熟なお子様には、ちょっと早かったかな……って聞けっ!」
 チノンは目の前に居なかった。既にガチ装備に着替え、ジュードさんたちと共に出発する直前だ。

≪アクシズ≫との戦いから四日。ちいなとはあの夜の後もギクシャクすることなく、まぁ普通と言えば普通。ジュードさん達とちいなはあの夜の祝勝会で打ち解けたみたいで、今度一緒に狩りをしようというチノンの提案が、今日叶った形だ。

「さて、、俺は何をしようかな…ジスレーヌさんは、どっか行くんです?」
 見ると、ジスレーヌさんもオフ装備ではなくガチ装備だ。新調したばかりと思われる両手杖と攻撃魔法職らしい黒のコートが、クールで物静かな彼女のスラリとした体型によく似合っている。猫耳も相変わらず可愛い。
「ええ、私はそろそろ中級職が近いから…≪魔術師(ソーサラー)≫になるための試練クエストを進めているところなの」
「そうかぁ…ジスレーヌさんもまだ、初級クラスだったんですよね。あの火力が更に強くなるのかぁ」
「うふふ。タビトも、そのうち中級職のクエストを受けることになるのよ。すっごい大変だから、覚悟しておきなさいね」
 ニコニコしながら脅すようなことを言われた。まぁ、ネトゲのクエストがマゾいのは重々覚悟の上だ。
(ジスレーヌさんはジュードさんたちとも俺やヨードルともレベル帯がズレてるから、何かと一人行動になってしまいがちなのかな…。そういえば中級職って何になるか、まだ決めてないや。同じヒーラーのさるとびさんとは職が被らないようにしたいなぁ)


 俺も三階のギルドスペースを出て、一階に降りて行った。ジュードさんたちと待ち合わせしていたちいなが、ヨードルと言葉を交わしている。
(あとは…ヨードルか。同じレベル帯だから、一緒にレベリングとかできればしたいけど…無理だろうな)
 あの戦いの後も、ヨードルは俺にどこか突っ慳貪(つっけんどん)だ。全く街から外に出なかった以前とは違い、どうやら一人で低レベル帯の野良パーティーに参加しようとしたり、装備を整えようとしたりしているらしいが。

「あ、タビちゃん。聞いてると思うけど、今日はジュードさん達と狩りに行ってくるから」
「ああ、行ってら。みんな出かけるみたいだし、俺は何するかなー」
「?ヨードルくんと一緒にレベリングでもすればいいんじゃない?」

「…僕は、大丈夫です。一人でやれますし」

(やっぱり、この調子だ…)


「そうだ、タビちゃんとヨードルくん、ダンジョンに行ってみたら?ダンジョンの敵は手強いし難しいけど、そこでしか取れないアイテムだってあるし、レベルだってフィールドで狩りをするよりも上がりやすいよ」
「だ、ダンジョンか…」
 ソウルズに閉じ込められる以前に、ダンジョンがトラウマになってしまった時の記憶が蘇る…。でも、俺はあの頃とは違う。今なら…。

「ふむ、ダンジョンとは良い案だね。」
 用意を済ませて下に降りてきたジュードさんだ。
「でも…確かダンジョンって、四人以上でないと入れないんですよね。それも、確か壁役(タンク)とヒーラーが最低一人ずつは居ないとまともに攻略できないとか。僕とタビト君が一緒に行くにしても、後の二人は…」
「僕達の誰かがレベルシンクして一緒に行く方法もあるけど…ここは誰かメンバーを集めてみてもいいんじゃないかな。ほら、やっぱり同レベル帯同士でやった方が、気兼ねしないだろうしね。それから、ちょっと値は張るけど、NPCを傭兵として雇う手もある」

「あ、でもタビちゃん達は、装備を整えることから始めた方が良いかもね。二人ともその貧弱な装備でダンジョンに行っても、回復力も火力も足りないと思うの」
 支度を済ませて下に降りてきたチノンが、『ちーちゃん、ちーちゃん』とちいなに擦り寄っている。相当懐いているようだ。ちいなは擦り寄ってきた猫をあやすように、チノンの頭を撫で撫でしている。

「よし、じゃあ一週間後に、お前らダンジョンへ行け。期限を決めた方が、張り合いが出るってもんだろ」

「さるとび師匠…そうですね。装備と、メンバー集めか…まずは、装備からかな」
「だから師匠はやめろ…、ところでタビトお前、スキルはちゃんとセットしてるのか?スキルがあれば、自前で装備を作ることもできるし、その装備をマーケットで売ってゴールドを稼ぐことだってできるぞ」

「ぜ、全然セットしてないです…」
 そうだ、すっかり忘れていた。ソウルズには『スキル』っていうシステムがあったんだ。このゲームを始めたばかりの時に冒険者ギルドで案内はされたけど、めんどくさくて放置してたんだった…!

「それはいけないねタビト君。うちの店でも冒険者ギルドでもスキルの<入門書>を販売しているし、今日は何のスキルを習得するか、じっくり考えてみたらいいんじゃないかな?…あ、<入門書>のお代はサービスできないけどね。じゃ、僕達はそろそろ出発するよ」


 ◆


「うーん、スキルかぁ…。四つしかセットできないってのが、迷いの種だよなぁ。特定の条件を満たせば枠は増えるけど、俺じゃ当分無理だってちいなは言ってたし…」
 俺は≪Rainwater(レインウォーター)≫のスキル案内所でかれこれ一時間も、スキルを吟味していた。