現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【18】Chapter 1.0 - 17

「ジスレーヌさん!次の<業火球(フレアボール)>、グリニーの方へ撃ってください!」
「えっ……でも」
 ジスレーヌさんが、ジュードさんとさるとびさんの顔をうかがう。二人とも、首を小さく縦に振った。
「…分かったわ!」
 ジスレーヌさんが<業火球(フレアボール)>の詠唱を始める。俺もすぐさま、<破邪球(セインツボール)>の詠唱を始めた。
 二人の了解を取るあたり、俺はまだまだ信用されていないのだろうか…まぁ無理もないな。

【18】Chapter 1.0 - 17

「<破邪球(セインツボール)>っ!」
「<業火球(フレアボール)>!!」

 二つの魔法が、グリニーと≪ガーディアン・セレマ≫を襲う。例によって全てのダメージは≪ガーディアン・セレマ≫が受け止めた。さらに、ちいなが連続攻撃を叩き込む。
「…なぁんだァ?このしょぼい魔法はよぉ~~!!そんなに死にてーなら、てめーらから先に逝かせてやるぜェ!」

 グリニーが<重力弾(グラビティ・バレット)>のターゲットを俺に向けて放とうとした瞬間だった。
 奴の持つ煌びやかな装飾が施された、青色に淡く輝く大きな片手棍(メイス)が、バキバキという音を立てながら全体に無数のヒビを生じ、その淡い輝きを失ってしまった。
 さらに、奴の手防具と足防具もボロボロの状態になり、身に纏った高級そうなコートもほぼその性能を発揮できないほどまでに痛んでいた。
 グリニーは一瞬何が起こったのか分からず、表情、身体ともに硬直している。

「…そ、、、そんな馬鹿な…た、耐久度がゼロだとおおおおお」
 咄嗟に自らの装備ステータス欄を確認したのか、ようやく事態を理解するグリニー。…だがもう遅かった。
 召喚術式は、術者の装備性能を加味したステータスとなっている。その装備の大半が壊れてしまった今、≪ガーディアン・セレマ≫のステータスにも強烈な下方修正がかかっていた。

「…もう終わりね。さよなら、強欲で愚かなギルドマスターさん」
 ちいなの切り札的なスキルと思われる強力な横薙ぎ攻撃によって、≪ガーディアン・セレマ≫は消失した。
「ちっ……くしょお……だが、、姐ちゃんよ、俺のHPはまだ十割残ってるぜ…。お前のHPはもう二割を切っている。ここで攻撃型の召喚術式を出せば、まだ分からねぇ、分からねーぞ、ケケケ……!」

 グリニーは戦闘開始の時と同じく、長い詠唱を始める。…が、その瞬間。グリニーの喉は素早く伸びてきた手によって掴まれ、詠唱は中断されてしまった。

「ジュードさん!……って、、ええええええ!!?」

 そこにいたのは、いつものイケメンジュードさんではなかった。
 一部に犬か狼のような特徴を従えたジュードさんではなく、まるで狼のように獣化した、ごっついジュードさんだった。
「…!………!!」
 グリニーは声を発することができない。ジュードさんのスキル<喉締め>によって、数秒間の沈黙効果を付与されているようだ。
 すかさず、ちいなとジュードさんの集中攻撃によりグリニーのHPはあっけなく一割を切り、そして絶命した。

 ふと左側を見ると、チノンが抑えていた六人は既に倒れていた。ちいな達の戦況に気を取られて、全く気付かなかった。あちらさんも、装備の大半が壊れてしまっているようだ。…このゴツいジュードさんが倒してしまったのだろうか。

 長時間の戦闘に飽きて、大半は街に戻ってしまった野次馬達から歓声が起こっている。そして観戦に疲れた彼らも一人、また一人と街へ戻っていった。

「…終わったわね」
「グルル!」
 ちいなと、ジュードさんと思われる男は短く言葉を交わし合った。

(あぁ…終わったな……グルル!…っておかしいよ!完全に獣の呻き声じゃん!)

「あ、あああ、あの、、ジュードさん?だよね」
 恐る恐る問いかける。
「ソウダヨ…タビトクン……」
「タビちゃん、ハーフウルフは午後八時を過ぎると獣化して、各ステータスが二十五%上昇するんだよ。知能系のステータスは五十%下がるけど…」
 ちいながクスリと笑いながら、タビトに種明かしをした。

「凄い攻撃力だと思ったらそ、そういう事だったのか…!…にしても、口調まで狼に変わるのはやり過ぎじゃないですかね…ジュードさん。ふ、普通に話せるんでしょ!?グルルって、わざとっすよね?」
「グルル??ワザトジャナイヨ、タビトクン……

 まぁ、戦闘が終われば人の姿に戻れるんだけどねぇ」
 システムが戦闘終了を検知したのか、ジュードさんが喋っている途中で元の長身銀髪眼鏡イケメンハーフウルフの姿に戻っていた。
 どうやら、午後八時以降でも戦闘中以外は元の姿のようだ。少しホッとする俺。

「…ともあれ、これで奴らの贅沢生活も終わりだろう。あれだけ高価な装備品の修理には、多額のゴールドがかかる。特にあのグリニーの片手棍(メイス)は、最新アップデートで追加された星霜(せいそう)級の装備だった。ヨードルのいない今、奴らが着けていた装備品はゴミ同然…再び奪還を企てたとしても、もう奴らに勝ち目はあるまい」

「やっぱり、そういう作戦だったんですね、ジュードさん」

「ああ、思ったより際どくなってしまったがね…タビト君が機転を利かせてくれて助かったよ」

「いえ、、俺はほんと、大したことできなくて…自分の力の無さを痛感しましたよ」

「そんなことはねぇぞタビト、前に俺がお前に言った、『ヒーラーは常に冷静であれ』って言葉、ちゃんと実践してたじゃねぇか。…見てたら分かる、お前は戦闘開始から冷静に戦局を見つめることができていた。それが終盤の機転に繋がったのさ…称賛されるべき敢闘賞だよ」

「さるとび師匠…!!ありがとうございます!!!」
「師匠はやめろってんだろ!」
 辺りが笑いに包まれた。ヨードルが口を開く。
「みんな…ちいなさん。ありがとう。僕が戦うことから逃げていたせいで、みんなを危ない目に合わせてしまった。…僕、強くなります。みんなを、ちいなさんを守れるくらいに!」

「ヨードル…うん、頑張ってね。私、応援してるよ」
 あの冷徹なちいなが、ニコっとヨードルに笑顔を向ける。何やら嬉しそうだ。
 ヨードルの顔がわずかに赤くなっている。
「…よーし!これにて一件落着!みんなお腹減ったよね!?店に帰って祝勝会しよ!しよ!!ちーちゃんも一緒に♪」
 チノンにしがみ付かれたちいなは少々困ったような、可愛い妹ができて嬉しいような表情だ。


 その夜、≪Rainwater(レインウォーター)≫の二階では≪猫と蜂蜜(キャットアンドハニー)≫のメンバーとちいなで祝勝会が行われ、どんちゃん騒ぎの限りが尽くされた。
 これでヨードルも心おきなく≪猫と蜂蜜(キャットアンドハニー)≫の一員に。俺も確かな成長の手応えと、同レベル帯の仲間ができたことでこれからが楽しみになってきた。

 …夜は更け、すっかり酔い潰れたメンバー達に毛布を掛けた後、俺は照明が落とされた一階に降り、食料保管庫から取り出したアップルサイダーを手に、一人カウンター席に着く。

「…タビちゃん」
 見ると、二階から一階に降りる階段のところにちいながいた。
「ちいな…起きてたのか」
「タビちゃんこそ」
「あぁ、、俺は二十二歳だけど、どーも酒とか苦手でさ…それはこっちの世界でも変わらないらしい。大学でも周りは飲み会だらけで、俺はついて行けなかったしなー」

 武装を解いてゆったりとした部屋着に着替えているちいなが、俺の隣の椅子に腰かけた。
「…やっぱり、タビちゃんもログアウト組になっちゃったのね」
「あぁ…お前もな」
 ちいなの様子は、いつになく落ち着きが無い。

「タビちゃんと再会してから、ずっと怖かった。戦ってる時も、内心ではずっと。タビちゃんがこっちに閉じ込められたのは、あの時すぐに分かったから」

「…ちいな」
 次にちいなが口を開くまで、少しの間があった。

「私が、この世界に閉じ込められるのは、構わない。けど、タビちゃんは、、私がソウルズに誘わなければ、閉じ込められることはなかった…!だから、だから…」

 ちいなの瞳に映る水分が嵩を増していくのを、薄暗い店の中でも感じ取ることができた。

「タビちゃんが、私を恨んでいるんじゃないかって、、私に勧められてソウルズを始めたことを、後悔しているんじゃないかって、、、!」

 普段は気丈なちいなが、この時はとても弱々しく見えた。

 だが、俺はこのちいなを知っている。本当のちいなは冷徹で気丈な鉄の女などではなく、どこにでもいる普通の女の子なのだ。


「…ちいな。大丈夫だよ。俺は、後悔なんかしてないし、恨んでもいない…」


 他に彼女にかける言葉が見当たらない。
 俺は泣きじゃくるちいなの頭をぽんぽんと撫でながら抱きしめ、心配するな、と声をかけ続けた。