現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【17】Chapter 1.0 - 16

 ≪療術使い≫はヒーラーの初級クラスだ。全てのヒーラーはこの≪療術使い≫というクラスから、≪聖術士(クレリック)≫、≪魔法医術師(マディカリスト)≫、≪霊術士(ミーディアム)≫という三つの中級職に派生していく。
 ちなみに上級職へはまだほとんどのプレイヤーが到達できておらず、その取得方法やスキルの詳細については謎に包まれている、とこの間さるとびさんが言っていた。

 ヒーラーとはいえ攻撃手段はちゃんと用意されていて、しかもその威力は決して弱くはないそうだ。
 ある程度ソロでも戦えるようになっていないと、最初に選んだクラスによってゲーム進行のしやすさが大きく異なってしまい、初心者ヒーラーの挫折やヒーラーのなり手不足といった問題が生じてしまう。開発者がそういった問題を懸念して調整したのだろうか。

【17】Chapter 1.0 - 16

 俺が放った攻撃魔法スキル<破邪球(セインツボール)>は、チノンが抑えている六人のうち最もレベルの低い一人に命中し、そのHPゲージが一割ほど削れるのを確認した。
 ターゲットは、チノンが敵視(タゲ)をキープしている≪アクシズ≫メンバーの中でも、最も弱そうなレベル三十二の剣士。<スピリット・アトラクト>の範囲外からでも遠隔攻撃ならばできるので、反撃される心配はない。

 <破邪球(セインツボール)>の着弾と同時に、焼け石に水とは分かっていてもチノンを回復するため、継続回復スキル<波状療法(ウェイブヒール)>の詠唱を開始。一秒という短い詠唱の割に、得られる回復効果は大きい。
 …だが、俺のレベルでのヒール能力など、この戦闘においては屁の突っ張りにもならない。

(悔しいけど、今の俺にできることはこれくらいしかない)

 俺の握手を無下に拒否した、あのいけ好かない奴の為の戦闘とはいえ、同じギルドメンバーが戦っているのに俺だけ何もしないでいるのは耐えられない。自分の力の無さがもどかしい。

「みんな…こんな愚かな僕のために…」
 近くに立っていたヨードルの小さな呟きが、俺の耳に入り込んできた。その次の瞬間に聴こえてきた音は、何やら歌詞の分からない曲のような旋律。日本語でも英語でもなく、全く意味を解することのできない、発声して真似ようとしても発音を舌に乗せることのできない、不思議な旋律。

吟遊詩人(バード)≫の歌スキル、<体内加速の歌(アクセルソング)>だ。歌スキルを使用するためのコストは、自身のMP。このMPが徐々に減っていき、MPが切れるか歌スキルを中断するまでは効果が永続するのが特徴だ。

「…みんな!これでスキルの再使用不可時間(リキャストタイム)が十%縮まる!敵の再使用不可時間(リキャストタイム)は五%延長されるはずだから、、いま僕にできることはこのくらいだけど、みんな、、ちいなさん、頑張って!!」

 離れた位置でグリニーの召喚術式と戦っている最中のちいなの表情が、一瞬緩んだように見えた。
 チノン、ジュードさん、ジスレーヌさん、さるとびさんも同様に頷く。

(ぐっ、、、こいつ良いスキル持ってんな…やべぇ俺が一番役に立ってないぞ!)


 チノンのHPゲージはさるとびさんの回復のおかげで、八割をキープしている。レベル的にはチノンの方がおよそ十ほど高いので、通常であれば六対六だとこちらが有利だろう。それが、奴らの異常なまでに強い装備によって五分と五分の戦いになっていた。

 だが、奴らのプレイヤースキル、つまり戦闘の技量は俺から見ても低いと思われた。

 もしあの六人が戦闘開始からバラけて行動していただけでも、チノンの<スピリット・アトラクト>や<グラウンド・ブロウ>で六人を一気に抑える事は難しかっただろうし、ヒーラーのさるとびさんに誰か一人でも張り付き、回復スキルの詠唱を妨害することによって、ちいなとチノンのHP維持を難しくすることもできたはず。

 ヨードルから搾取した金で装備を揃えたため、その装備を購入あるいは製作して取得する過程で、本来ならば当然に身に着けているはずのプレイヤースキルがないということだろう。

「チッ……おぉい、回復だ!壁役(タンク)殴ってる場合じゃねぇよ!!」
 チノンに抑えられている六人のうち一人が半ば吐き捨てるように指示した相手は、これまた高級そうなローブを身に纏った、打突部分が無駄に豪華な聖棍(ホーリィメイス)を持つヒーラーと思しき男だった。他の五人と一緒になってチノンを攻撃していたらしい。
「あ!あぁ、、、すまねぇ!………<清き癒しの祈り(プレアヒール)>ッ!」

(…聖棍(ホーリィメイス)を装備しているということは、アイツは≪聖術士(クレリック)≫…あんな奴でも中級職になれるんだな。他人を軟禁して搾取しておきながら"清き癒しの祈り"だなんて、面白い冗談だよ)
 <清き癒しの祈り(プレアヒール)>は恐らく≪聖術士(クレリック)≫固有の範囲回復スキルだろう。詠唱を終え、六人のHPゲージはほぼ満タンまで回復してしまった。かなりの回復力だ…。

 その瞬間、六人の頭上から巨大な火球が落ち、爆散した炎が六人のHPを二割から三割ほど奪っていった。ジスレーヌさんの十八番、<業火球(フレアボール)>だ。
 そこへ、ジュードさんの範囲攻撃スキル<旋風脚>、<地烈拳>が襲いかかる。六人のHPはいずれも、残り半分を切っていた。

 普通に考えれば、ここで再び範囲回復スキルが発動される前に、≪聖術士(クレリック)≫中心に更なる総攻撃を仕掛けヒーラーを排除するのが有効だろう。だが…

『…早めに奴らを倒してしまうのは難しくないだろう。だがあえて今回、皆に負担をかけるが長期戦に持ち込み、生かさず殺さずをキープしてほしい。その後は僕に任せてくれ。それがヨードルを守ることになり、この先も仲間として、この世界で共に生きていくことに繋がる』

 ジュードさんの"いい案"を思い出す。そうだ、ここはこのまま長期戦に持ち込む…ちいなも上手くやってくれているようだ。


 既に、戦闘開始から一時間が経とうとしていた。
 ジュードさんの"いい案"に従い、わざと長期戦に持ち込んでいた俺達にも、段々疲労の色とリソースの限界が迫ってきていた。

「フ……アハハハハァ!!そっちの嬢ちゃんと、ヒーラーのおっさんはMPが切れる頃じゃねーか!?決着の時が迫っているようだなァ!!」
 双方ともにほぼ黙々と攻防を繰り返し、徐々に俺達を取り巻いていた重苦しい雰囲気を増幅するかのようなグリニーの声が響いた。

 グリニーの煽りはその通りだった。さるとびさんのMPが切れようとしている。既に消費MPの大きな<集中療法(メディキュエイド)>は使えず、下位互換スキルである<応急療法(ファストエイド)>や、<波状療法(ウェイブヒール)>でしのいでいる現状だ。

「くっ……ジュード!俺はもうMPが切れるぞ!!」
「あ、、あたしも…!<スピリット・アトラクト>の効果が切れたら、こいつらを抑え切れない…!!」
 ついに、ちいなへの回復が途切れてしまった。召喚術式≪ガーディアン・セレマ≫の攻撃とグリニーの攻撃で、ちいなのHPが徐々に削れていく。

(ちいなが!……ん、、あれは!?)
 HPが削れていくちいなとグリニー達、そしてチノンが抑えている六人とジュードさんの方を見て、とあることに気付いた。
(そ、、そういうことか、ジュードさんの"いい案"、分かったぜ…際どいな、、あの人の作戦は)

(……今、一番"ぶっ壊れ"そうな奴は……アイツだ!!)