現世(うつしよ)の向こうから@小説ブログ

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【16】Chapter 1.0 - 15

 夕陽は既に沈み、リンネの街を出てすぐの草原エリアは、タビト達が戦っているすぐ横の街道沿いにそびえる街灯の明かりと夜の闇が交じり合い、ほの暗くなっていた。


 ◆


 金属同士が激しくかち合う音が鳴り響く。
 私の放った初撃<ヘヴィ・ストライク>は標的の≪召喚術士(サモナー)≫・グリニーまで到達することなく、彼によって召喚された召喚術式≪ガーディアン・セレマ≫によって阻まれた。

【16】Chapter 1.0 - 15

 魔法攻撃系のクラス、≪召喚術士(サモナー)≫。魔法によって生み出された様々な召喚術式を使役し、自らの盾や矛として扱うことができるのが特徴だ。呼び出された召喚術式のステータスは、術者自身のステータスだけではなく装備アイテムの性能も加味されている。

 グリニーが生み出した召喚術式≪ガーディアン・セレマ≫はその中でもHPと防御力が高く、術者の被ダメージを全て肩代わりしてくれるという特性がある。代わりに攻撃力はさほど高くなく、また術者も召喚術式を常に維持するため、詠唱を伴う攻撃が不可能になるという制限がある。

「…なるほど、あなたの薄汚れた装備のステータスが反映されているわけね。いいわ。どっちが先に折れるか、根競べと行きましょう」

「無駄だ、多少火力に自信があるようだが、所詮壁役(タンク)ごときの攻撃で壊せはせん!」
「…それはどうかしらね!」
 私は重剣を右肩に乗せるように構え直し、通常では考えられない間隔の連続攻撃で≪ガーディアン・セレマ≫のHPを削る。

「なっ、、なんだよそのスキルは…まさか、それで通常攻撃かよ!?おいおい…、おいおい…!」

 ソウルズの戦闘における攻撃は、通常攻撃とクラススキルを織り交ぜて行うのが基本だ。≪重剣闘士(ソード・ウォリアー)≫の<アサルトスイング>や<ヘヴィ・ストライク>など、多くのクラス固有のスキルには、再使用不可時間(リキャストタイム)が設定されている。
 クラススキルが使えない間は、三秒に一回までの間隔で無制限に発動できる威力の弱い通常攻撃を放つことで敵のHPを削るのが基本だ。

 しかし、私は三秒に一回しか使えないはずの通常攻撃を、一秒に一回の間隔で放つことができている。

 一人につき四つまで設定できるスキルのうち一つ、『駿攻(しゅんこう)』。通常攻撃を発動できる間隔を縮めたり、通常攻撃一回あたりの威力を強化したりすることができる常時発動(パッシブ)スキルだ。
 これを最大レベルの八まで上げることによって私は、三秒間に三回の通常攻撃、さらに一回ごとの与ダメージも通常の十五%増という効果を常に発動することができている。

 ちなみに『駿攻(しゅんこう)』を最大レベルの八まで上げるには、自分とレベル差がプラスマイナス五以内のエネミー(敵)を―――約八万体倒す必要がある。

「こ……こぉのクソ廃人がああぁ!!!!!!」
「…それは私への褒め言葉と受け取るわ」
 その言葉に嘘は無かった。『廃人』と呼ばれるのを嫌うネットゲーマーは多いけれど、私のようにそれを褒め言葉と受け取る層も一定数居るのだ。
 ゲームの世界と一体化している、ゲームの世界の住人となっていることを他者から認められているようで、心地が良い。
 もっとも、今は実際にソウルズの世界に閉じ込められ、ソウルズの世界の住人のような状態になっているのだけれど。

 …だが、壁役(タンク)としては最も火力のある≪重剣闘士(ソード・ウォリアー)≫で、スキルも装備も強力な私の攻撃をもってしても、≪ガーディアン・セレマ≫の硬さはかなりの物だった。
 初撃の<ヘヴィ・ストライク>を叩き込んだ後も、超強化された通常攻撃を連続で加えながらクラススキルを織り交ぜていたが、≪ガーディアン・セレマ≫のHPはようやく七割を切ったところだ。

(…けど、ここで私が≪ガーディアン・セレマ≫を叩くのを諦めてチノンさんのところへ加勢に行けば、この男は術式を攻撃型のものに切り替えて、あのおじさんヒーラー……さるとびさんを狙いに行くでしょう)

 さるとびさんのクラスは≪魔法医術師(マディカリスト)≫。ヒーラー系中級職の一つで、攻撃的なスキルがあまりない代わりに、純粋なヒール能力では他職に引けを取らない性能を持っている。
 だが、≪魔法医術師(マディカリスト)≫に限らずヒーラーというものは、むやみやたらに回復スキルを連射していてはMPが尽きるのも早くなってしまう。オーバーヒールにならないよう、要所要所で無駄のないヒールワークが必要になるのだ。

 さるとびさんは私とチノンさんの二人両方に回復スキルがギリギリ届くような位置取りをキープし、私達二人のHPを維持している。
<応急療法(ファストエイド)>や<集中療法(メディキュエイド)>の最大射程距離は二十五メートルだ。

(ここでさるとびさんがやられてしまえばチノンさんはもちろん、私のHPは早晩尽きる。…レベルの低いタビちゃんのヒール能力ではとても追いつかない。このパーティーでの実質のヒーラーは、さるとびさん一人だ)

 ≪重剣闘士(ソード・ウォリアー)≫は火力こそ高いけれど、防御力が低いという弱点がある。実際、≪ガーディアン・セレマ≫の通常攻撃(オートアタック)と、≪召喚術士(サモナー)≫の無詠唱クラススキル<重力弾(グラビティ・バレット)>に加えて、グリニーが放つ魔力波のような通常攻撃を受けている私のHPの減りはひどく速い。

 与ダメージを増幅する代わりに被ダメージも増幅されてしまう<狂気昂揚(インサニティ・エンハンス)>こそ発動していないものの、基本の防御系ステータスそのものが低いのだ。だから、ネット上ではよく『脳筋闘士』などと揶揄されている。

(残りの≪アクシズ≫メンバーはチノンさんたちに任せて、最も戦闘力のあるグリニーをこの場に(とど)めるのが、今の私の役目…)

「さすがに火力たけーな、ビックリだわ!」
「…だが、まだまだなんだよなァ。<術式修復(サモン・リペアド)>!」

 召喚術式のHPを回復するスキルだ。これによって、≪ガーディアン・セレマ≫のHPは九割台まで回復した。
「ハハハッ!!どんだけ殴っても無駄だぜ、姐ちゃんよぉっ!!」
「くっ……! ……はぁ、はぁ」
 私はさすがに息を切らしながらも、≪ガーディアン・セレマ≫への攻撃を続けた。
 HPが六割を切る度に<術式修復(サモン・リペアド)>が飛んできて≪ガーディアン・セレマ≫のHPは回復していく。結果として、私の攻撃はほとんど無意味なものとなってしまっていた。

(けど、、これでいい。…彼の作戦通り。ただのライトなプレイヤーだと思っていたけど、中々の策士だった訳ね)


 ◆

(さすがジュードさんだ。クールな眼鏡、銀髪、長身、イケメン、秀才、策士…俺が女なら惚れていたかもしれない。それにしても、ちいな強すぎ。…アイツをそこまで廃人たらしめている原動力は何だ!?)

 必死に召喚術式のHPを削るちいなの方を見てそんなことを考えながら、俺は森でのレベリングで習得したばかりの攻撃魔法スキル<破邪球(セインツボール)>の詠唱を始めた。

 だが、今戦っている人達のレベルからすれば、その威力は豆鉄砲に等しい。悲しい現実がそこにあった…。